【No.1547】#クラフトオキナワ No.3 金細工まつ 上原俊展
*毎週土曜日に沖縄タイムスで連載させていただいている#クラフトオキナワ。伝統を大切にしながらも新しさを取り入れた「工芸進化のカタチ」を発信しています。
みなさん、錫(すず)という金属をご存じでしょうか。錫は腐食しにくく、抗菌作用が強いという特性があり、さらに水や泡盛などお酒の味をまろやかにするとされています。沖縄でも琉球王国が栄えた大交易時代のころより、中国などから原料の錫を輸入し作られていた錫工芸の文化がありました。当時は王府直轄の「錫細工(シルカニゼーク)」と呼ばれる職人たちが祭祀道具や酒器などを生産していましたが、王国の崩壊とともに衰退し、今から100年ほど前にその技術は途絶えてしまいました。
神奈川県出身の上原俊展(としのり)さんは、秋田と富山で金属加工技術を学んだ後、祖父母と父親の出身地でもある沖縄の錫工芸の文化を復活させ、多くの人に知ってもらいたいという思いで2015年、宜野湾市野嵩に工房「金細工(かんぜーく)まつ」を立ち上げました。
上原さんは、沖縄の錫工芸の調査、研究も行いながら「琉球錫器」を作っています。その中でも酒台(シュデー)と一ツ耳盃(ひとつみみさかずき)は、琉球王国の時代に作られていた形をベースに、現在の生活でも使いやすいデザインにアレンジしています。さらにワークショップを開催し、錫の歴史や泡盛と楽しむ使い方の提案など、錫の魅力を伝える活動も行っています。
このように、モノづくりにとどまらず、歴史や文化、使い方の提案を作り手自身が発信する事で、県内外のセレクトショップなどへ販路が広がり、最近では東京の五つ星ホテルのレストランへの納品も実現しました。上原さんの取組によって息を吹き返した沖縄の錫工芸は、新たな進化を遂げようとしています。